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犬蒙昧史

 


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「chosen」の誕生による犬イメージの変遷について

 

2022年4月
現代文化犬類学研究所

 

    犬は、1980年代初頭から終わりにかけて一般的となった「犬生成簡易キット」により、それまでの猫派優勢の状況を押しのけ、一挙に日本のペット市場を独占することとなった。

    母犬からの分娩により生み出される犬を「胎生犬」と呼ぶのに対して、専用生成具により生み出される犬は、英語圏では「chosen dogs」、あるいは単純に「chosen」と呼ばれている。

    これを邦訳し、我が国ではこれらを選択犬と呼ぶのが一般的であるが、その語源は、生成具により生み出される犬が人為的に「選択」された容姿や能力を有するためである。

     chosenらは、従来の親犬からの遺伝情報や飼育環境によりランダムに決定されていた1匹1匹の個性が徹底的に操作されている。しかし、chosenはそのカスタマイズの自由さとは裏腹に、極めて画一的な性格特製及び外見的特徴が目立つことがあり、これにより「chosen」という単語は単純な一般名詞としてでは無く、形容詞的に用いられることもある。

    例えば、一般的なchosenは毛量の少ない白地に黒ぶちで、5-60cmほどの体躯に小さな泣き声といった特徴(これらは人間の室内飼育環境に適応した特徴である)を有するが、これに該当する犬は自然分娩種を含めて「chosen」という名で呼ばれることがしばしばであるし、「dog」という一般名詞により喚起される犬イメージはこのchosen像にかなり寄ったものとなっている。

    1980年代以前に我が国で発表された犬のキャラクターには茶色のふさふさした体毛やくっきりした顔立ちをもつ所謂「日本犬」的なイメージをベースに作られることが多かった。

    しかし、生成具によるchosenの頭数が増え始めた80年代中盤から後半にかけて、白地に黒縁で、室内飼いのために「従順」な性格に選択された控えめな表情の犬像が一般的となり、それを反映するように、犬を模したキャラクターも同様にこれらの特徴を有するようになった。chosenはもはや、イレギュラーな、自然分娩との「差異」としての犬ではなく、むしろ犬像全体を包括するレギュラーな「本体」としての犬と言って良いだろう。

    一方で、生命倫理の観点からの批判は絶えることなく、特に2017年に発案された「キット等犬生成具による犬生成の禁止法案」は未だ可決されていないが、胎生以外による自然の摂理から外れた人間による無責任な犬の生成に関しては厳しい目線が浴びせられている。

 

    事実、犬生成キットの家庭所有は厳しく制限され、専門の教育課程を持つ期間で4年間の教育を受けたのちに国試によって取得できる国家資格「犬生成師」を保有し、5年以上の専門家によるスーパーバイズを受け、更に5年以上の犬生成専門機関による実務経験を経たものによる、業務上の法定実務における犬の生成を除く生成行為に関しては、刑法により厳しく罰せられることとなっている。